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つかこうへい

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オススメ度:☆☆☆☆★
オススメポイント:銀ちゃんって人。それにすごく読みやすい。
蒲田行進曲 (角川文庫 緑 422-7)
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風間杜夫は落語をやっていて、最近じゃそっちが本業なんじゃないか、ってくらい熱心である。
元々がこの人熱中型なのか、何をやってもとことんやる。極める。甘いマスクからは想像できない。

もとは東映の天才子役、住田知仁名として、マキノ雅弘、田坂具隆、加藤泰監督などの有名監督作品に出演する売れっ子だった彼は、米倉斉加年の「俳優を一生の仕事にするのなら子役をやめた方がいい」との助言によって13歳の時に児童劇団を退団してしまう。詳しい経緯はわからないが(「徹子の部屋」が手軽に参照できたらいいのに)、大の大人が忠告するのだからよほど見込みがありそうだったのだろうし、13歳で人生の決断をしているのだから早熟だったのだろう。
先日カンヌ俳優柳楽優弥が薬物大量摂取で病院に運ばれニュースになったが、本人の言うように自殺未遂でなかったとしたらなおのこと、体を大事にしなければいけないのが役者だというのにやけになって、若くして風貌と存在感だけで栄光を手にしてしまった少年の周囲に適切な助言者がいないのは不幸なことだ。
風間杜夫は大学中退後に劇団や日活ロマンポルノで下積み、その後テレビドラマ「スチュワーデス物語」や映画「蒲田行進曲」で大成功を収める。役者としてだけにとどまらず、声優としては海外ドラマ流行の発端X-fileのモルダーの日本語吹替をつとめ、マージャンも強く「THEわれめDEポン」というフジテレビのマージャン番組では最多の6回の優勝、落語は独演会をやる腕前である。
テレビに出ずっぱりというわけでもないのにずっと忘れられることのない人だ。

この落語、柳家花禄との二人会で聞いたことがある。出囃子は「蒲田行進曲」、噺は劇作家鈴木聡の新作落語「よいしょの階段」。吉原を舞台にした若旦那もので、鈴木聡の劇は見たことがないのだが、落語は中々いいなぁと感心した。(新作落語はいろんな劇作家・放送作家が嬉々として書いている)タイトルどおり、階段が出てくるのだが、もちろんいいところで「階段落ち」もある。(※ここで「銀ちゃん!!」と声をかけてあげないと話を先に進めない。)

まあだから何だ、というと、銀ちゃんは、演じた風間杜夫とは全く逆の人間なんだよ、という話である。
銀ちゃんは映画スターだけれど、演技はくさいし芸はないし自分が映ることばっかりがつがつしちゃって、他のスターやスタッフたちからは鼻つまみだ。とりえといえば二枚目で華があるってだけ。だもんだから、スターのくせに格下のスタントマン、ヤスやトメさんたちといつもつるんでる。これが気前がいいんだか悪いんだかで、肉おごってやる、とすき焼きについて行けば人が肉に箸を伸ばすのを目ざとく見つけてはいちゃもんつけて、結局皆おしんことごはんでおなかがいっぱいになっちゃう。すると今度はせっかくおごった肉が残ってる、といきりたつ。しまいにゃ誰が卵をおかわりした、ってせこい難癖つけて、せっかくの宴会はもう台無し。思ったとおりに行かないと気に入らないし、思ったとおりに行っても気に入らない。ぐねぐね絡むわけだ。
女癖も悪くって、清純派好みなんだけれども大切には付き合えないで好き放題こましちゃって、飽きたら「あのズベ公」と清純派の夢が壊れたことを嘆いて泣くのだ。蝶を触って壊しちゃう子供である。
舎弟のヤスは銀ちゃんの子供を身ごもった小夏を押し付けられて一緒になる。
このヤスは大学出の新劇出身で演劇論や映画論も知っている男なのに、うだつのあがらない大部屋の役者で、いっつも銀ちゃんの切られ役ばっかりやっている。銀ちゃんのことが好きで好きで、理不尽にいじめられればいじめられるほど、銀ちゃんのことが好きでたまらない。
新撰組の立ち回りで、池田屋の二階から斬られて落ちる階段落ち。「こないだやった富田さんはまだ半身不随だ」とウワサされるこのアクションは、いわば虫けら同然のスタントマンの華なのである。
「『階段落ち』やる日のセットの前には、香典を入れる箱を用意しといて、香典をもらうようになってんだよ。だから、親しい人には、その香典のお返しに生命保険に入っておくってのがしきたりになってんだよ」
映画会社は危険な階段落ちはもうやるな、と言っている。監督も求めていない。しかし階段から落とす役の土方歳三は銀ちゃんなのだ。銀ちゃんの最大の見せ場。ヤスはどうしてもこれをやる気でいる。これがあるかないかでシーンの迫力は雲泥の差だ。階段落ちをして、銀ちゃんに花を添え、小夏に金を残し、死んでやろうとしている。
ヤスはなんでそこまでして銀ちゃんを愛するのか。
銀ちゃんが憎めない馬鹿だってことだけでは説得力がない。たしかに銀ちゃんは、この人馬鹿だって皆が知ってるんだけどあがめられるっていう一種のカリスマがあるんだけれど。
小夏がその鍵を握っている。
小夏はヤスに押し付けられた当初は銀ちゃんにほれていて、いいなりのヤスのことは気持ち悪いと思っている。だけど次第に、いつもそばにいてくれて、自分のために余分に仕事を取って稼いだ金で冷蔵庫を買ってくれたり風呂付のアパートに引っ越してくれたりするヤスのことを愛するようになっていく。しかし、すると、優しかったヤスが少しずつ変わっていくのである。
ヤスはだんだん、小夏に絡むようになり、しつこく嫌がらせをいって、慕ってくる小夏を邪険にするのだ。そしてどんどん銀ちゃんに似てくるのである。
もう銀ちゃんのことなんかなんとも思ってないんだから二人で幸せになろうよ、と言う小夏にヤスは、お前は銀ちゃんとまだ続いてるはずだ、という。どうしろっていうのよ、と半ばあきれ半ば苛立つ小夏に頼むのは、銀ちゃんのこと。銀ちゃんが最近立ち回りで遠慮して昔みたいに乱暴にしてくれない、どうしてなのか一度聞いてみてくれ。
劇から生まれた作品ならではの、理屈からでなく積み重ねられた言葉による説得力が、銀ちゃんとヤスの愛情を確立している。

劇団つかこうへい事務所による舞台(つかこうへい作・演出)は1980年第15回紀伊国屋演劇賞、つかこうへい自身のノベライズによる本作は1982年第86回直木賞受賞、つかこうへい脚色・深作欣二監督による映画作品は第6回日本アカデミー賞他各賞を総嘗め。
舞台でも小説でも映画でも成功した珍しい作品である。


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