びぶりおふぃりあ  ブックレビューとオススメの海外ドラマ・映画のあらすじと感想。顔面血管腫(赤アザ)カバーメイク体験談

ハードボイルド

ここでは、「ハードボイルド」 に関する記事を紹介しています。
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オススメ度☆☆☆★★
オススメポイント:昆虫
グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)
伊坂 幸太郎

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) ラッシュライフ (新潮文庫) アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫) オーデュボンの祈り (新潮文庫) 死神の精度 (文春文庫 (い70-1))

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あらすじを読んで、お、と思った。
妻を殺され復讐を誓った男、仇を横取りされる。ターゲットが目の前で他の誰かに殺されてしまうのだ。
面白い。
読み進んでいくとますます興味がわいてくる。
主人公は「鈴木」。名前といえない、記号だろう。一般人、妻を殺されたという以外全て凡庸、ということをあらわしている。妻の復讐をもくろんだために彼の身の回りに物騒な人々が姿を現す。「鈴木」の他には二人の副主人公がいて、「蝉」は殺し屋の若者、「鯨」は自殺屋。自殺屋、という商売が面白い。政治家に依頼されて秘書を自殺に追い込んだりといった仕事なのだが、「鯨」を目の前にすると誰もが死にたくなってしまう、という設定にはくらっとくる魅力がある。彼が「誰でも死にたがっている」と一言言うと、誰もが心の奥底にある絶望に魅入られて死を選ぶのだ。
私がもしそういわれたら、と思うとぞくりとする。どうしようもなく死に魅入られるのだ、そのときこそきっと、・・・。それは明らかに実のない幻想なのだがこのようにこっそりと堕ちゆく自分の姿を想像する快楽は読書の楽しみの一つだ。

惜しむらくは設定のみでストーリーがないことか。
淡白すぎるのだ。
後半になって物足りなさを感じてくる。
また、必要以上の死者にも設定倒れの感があり。

ところでグラスホッパー。バッタのことだそうだ。
それを知ってから読むとメッセージが明確になる。
バッタは仲間が増えすぎると凶暴化し、飛翔力を強める、そう語られる場面がある。
我々は、増えすぎたのだろうか?


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オススメ度:☆☆☆☆★
オススメポイント:あんたかっこいいよ


ロング・グッドバイ
ロング・グッドバイレイモンド・チャンドラー 村上 春樹

おすすめ平均
starsハルキ“マーロウ”はイカす・・・
starsうまいのは、翻訳か、原作か
starsギムレット
stars最初から最後まで
stars数十年の思い込み

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ハードボイルドとはかたゆで卵から転じ、冷徹・非情さを表す。
文学上、ヘミングウェイなどの感情を排除した文体による表現手法のこと。
またその応用とされるハメットやチャンドラーによって確立されたミステリーの1ジャンルもこのように呼ばれ、非情な探偵を主人公とする。
・・・念のため、辞書を引いてみた。

しかし、「長いお別れ」主人公のフィリップ・マーロウを非情という人はいないだろう。
ロマンティックなフィリップ・マーロウ。権力を嫌い孤独を愛す。誰かに痛めつけられてもめげない。金には興味がない。政財界の大物の圧力にも卑屈にならない。絶世の美女にせまられても虜にはならない。タフな男。
彼は出だしから最後まで、かっこよさを失わない。
これはある友情の物語である。孤独を愛する男が唯一友達と認めた男の名誉のために危険を冒して戦うのだ。
面白くはあるけれど、これはミステリーなのか?と思いながら読み進み、終盤になってやっとこれは本当にミステリーだったということを思い知らされる。事件は解決したはず、と思ってからさらにおどろきの真実が待っている。序盤マーロウが「ふたりの人間の命を救えるはずだった」、と述懐した数勘定が、最終的にストンと割り切れて収まってしまう。そんな展開が快い。
男同士の友情、そして美しい別れ。ヒロインの魅力が登場ごとに別の顔を見せるのも素晴らしい。
「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」
この瞬間に痺れた。
ここで誰もが痺れるのだ、そう解るのに、それでも痺れずにはいられない。名作とはそういうものだ。
ハードボイルドの最後は事件解決による美しき平和でしめくくられはしない。戦いの続行が語られるだけだ。その孤独という生活スタイルそのものが彼の戦いである。彼が戦っているのは悪ではなく、群れることで必ず失われる正義なのだ。

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オススメ度:☆☆☆☆☆
オススメ対象:不思議の国のアリスよりも鏡の国のアリスが好きな人に。自分のスタイルを確立できないことに疲れた人に。
オススメポイント:様式が整っており、謎も楽しめる。
4101001340世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉
村上 春樹

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耐え難いのは、教室で昨日と同じ席に座ること。
自由にどこにでも座っていい、と言われたクラスは選択で生徒は少なく、座席はほとんどが空いていた。
だから私は毎回違う場所違う人の隣に座った。
「君はちょっと変わってるね。ちょっぴりどこかがおかしいかもね」
教師は言った。
昨日と同じことを繰り返すのは耐えがたかった。
反復する日常の枠からいつもはみ出てしまう。
この世界で一番残酷な違いは砂糖と塩とか、天国と地獄とか、そんな違いではなくて、砂糖と電車、戦争とアルマジロ、噴火とほくろ、そんな違い。ドアは開けても開けても前とは違うジャンルの音楽が鳴り響き、どの部屋にもい続けることなんかできないし、何やっても何か違うそのくせ、何かやらないで生きるにはあまりに長すぎる人生、何かやろうとするととたんに短い人生、どきどきがどんどん大きくなっていく。
「それ」は全然見つかんなくて、世界はいつも「もっと何か別のこと」に満ち満ちてて、膨らみ続ける風船が私の居場所をきゅうきゅう圧迫する。

若さが苦しい。

「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」はそんな若き日の私に安らぎをもたらしてくれた本のひとつだ。私は飽かずこの本を読んだ。最初は父のハードカバーで、やがて自分で買った文庫本で。誰かに貸した文庫が返ってこなければまた新たに書店で求め、繰り返し、繰り返し。
不思議なものだ、昨日の繰り返しは嫌なのに、本は繰り返し読めるなんてね。

同じ安らぎをもたらしてくれる本が、他にもあった。それは数冊の料理の本だった。
素材別の調理法の本、一般的な献立の基礎の本、おもてなし用のご馳走の本、弁当用の本。
にくじゃが・ビシソワーズ・ミートローフ・冷凍庫クッキー・鶏のキジ焼き・チキンライス・ババロア・豆腐の卵とじ、茶巾寿司。
何度も読むうちにその料理のコツや味の特徴がレシピから読み取れるようになった。よく出来たマニュアルがそうであるように、それらの本の簡潔さは雄弁だった。どのスパイスが肉の臭みを抜くのか、どの工程でどの材料がどういったやわらかさに火が通っていなければならないのか、口に入れたときにどのような食感になるのか。わかりやすさのために割愛されているさまざまなことが、繰り返し読むことで行間から、たとえば材料の切り方や鍋に入れる順番から、あぶりだされてくる。読めば読むほど奥が深く意図が細部に宿っている。
私は何度も読み返しては頭の中で献立を組み、全体の手順をシミュレートした。
ちょうど母が家を出て行った頃だったから料理はすぐに役に立ち、受験の準備の合間に私は腕を上げた。
それが嵩じて高校三年の夏には料理の専門学校に資料請求までした。
料理をするのは好きだった。父も弟も友達も私の料理を喜んだ。私も彼らに料理を食べてもらうのが大好きだった。でも私はやはり「その部屋」にもとどまることはできなかった。資料は捨てた。最初から、料理人を目指すつもりなんか、それどころか、目指すつもりになる可能性を信じる気すら、ちっともなかったのかもしれない、とそのことに苛立った。
私には「何かになる」ことはできなくてどうにも自分であることしかできなくて、でも自分が何なのかわからないままどきどきがどんどん大きくなる、世界は膨らみ続けている。

今にして思えば、私はこの本にスタイルを求めていたのだと思う。確立された、秩序を。
料理の本に摂理を求めていたように。
ハードボイルドワンダーランドの主人公の持っている、こまごまとしたコダワリ(実にソファーや車の選び方やサンドイッチの作り方に至るまで)や、世界の終わりに在る秩序が、私にささやかな安らぎをもたらしていたのだ。
受験の準備の合間に埃っぽいヒーターの前にうずくまるようにして本を広げ、時にキッチンに立って料理を作った。そして私自身の問題や出て行った母のことや進学のことがいつも「もっと何か別のこと」に変化し続けて私を圧倒する混沌の嵐のさなかに、他人のスタイルを借りてやっと、息つける場所を確保していたのだ。

若さは、今も苦しい。

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