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恒川光太郎

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オススメ度:☆☆☆☆★
オススメポイント:この美しい悲しみ

夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)
恒川 光太郎

ジュリエットXプレス (角川文庫 し 38-1) すきま (角川ホラー文庫 く 1-2) 花まんま (文春文庫 し 43-2) 子どもたちは夜と遊ぶ 上 (1) (講談社文庫 つ 28-3) (講談社文庫 つ 28-3) 子どもたちは夜と遊ぶ 下 (3) (講談社文庫 つ 28-4) (講談社文庫 つ 28-4)

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母は強し、と世間は言うが、私は、弱くなった。めっきり、意気地がなくなった。怖がりになった。眠りに落ちる瞬間に、子供を抱いたまま階段から落ちる光景がまぶたの裏をよぎって泣き出してしまうこともある。
もともとが、けっして強いというわけではないのだが、気は強かった。たいしたこともできないくせに、向こう見ずだった。どこへいった、私の無鉄砲。
出産前に最後の検診の帰り、中目黒の本屋で4冊ほど見繕って文庫を買った。どれもすぐに読めそうな、楽しい本に思えた。
その後2冊はとんとん、と読んだのだが、出産後、残りの2冊にためらった。
一冊は江戸川乱歩、「人間椅子」。そしてもう一冊がこの本、「夜市」である。
ホラーや怪奇小説が読めない。怖いのである。

何日かためらったあと、「夜市」を開いた。

夜市とは、ある条件の下にだけ人間も参加できる、魍魎・異形が集う市である。そこに売買されているものは数万円から何億までの値がつけられ、曰く付きの品物ばかりである。
市、サーカス、祭、それらは和洋東西を問わず定住者たちの日常の外にある人々とのつかのまの交流であり、それによって秩序が消化しきれない日常の芥、溜め込むと膿となり毒となるそれを放出する場でもある。
どの作家もそれを子供時代と結びつけて表現しているのは、蔑みで鎧した大人と違って無防備に印象を受け止めるということもあろうし、また子供は非日常と日常の境に遊んでいる存在だから、彼らに近いのだということもあろう。
子供の頃の記憶として描き出される恐怖、不安は魅惑と表裏一体である。
「夜市」の場合は少し趣が違っていた。祐司の心にわだかまっているのは、子供の頃ふと紛れ込んだ夜市での後悔の記憶。この後悔はあまりに深刻だったため、祐司は夜市に対して恐怖も不安も感じていない。魅了されてもいない。「夜市」は彼に些少のものを与え、引換えに人生の歓びを奪ってしまった。喜びに自分はふさわしくない。目を逸らすことのできぬ罪の意識。「夜市」で彼は弟を売ったのだ。
そしてある夜、長じた彼は再び「夜市」が開かれることを知る。そして彼は出かけていく。弟を買い戻すために・・・。

第12回日本ホラー小説大賞受賞作。各氏選評のとおり、「物語の素晴らしさ、後半の展開の新鮮さ」は耽読で鈍感になった活字中毒たちの舌に救いの水となる。ふう、これでひといきつける。

ただひとつだけ残念なのは、厭世の引き金となった出来事。レベルが低い。付き合っている女の子が、友達がプロ野球選手と寝たという話を羨み、だからあなたも早くプロ選手になってね、というだけの話。こんなことで生きているのが馬鹿馬鹿しくなるなんて、というよりも、こんなエピソードをこの作品に埋め込んでしまうなんて、他が浮世離れしている中で陳腐でもったいない。
もう少し練るだけで美しくなったのではないだろうか。

恐る恐る開いた「夜市」は、怖くなどなかった。
ただ悲しく、切なく、美しかった。
これが「ホラー」に分類されることに異存は全くないのだが。
良い作品とはそういうものかもしれない。


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