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意識の流れ

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オススメ度:☆☆☆☆☆
オススメ対象:年を取るごとにみずみずしくなる人へ
オススメポイント:頭などくだらないわ、心に比べれば。

ダロウェイ夫人ダロウェイ夫人
ヴァージニア ウルフ Virginia Woolf 富田 彬

角川書店 2003-04
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おすすめ平均

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クラリッサ。それは初めて読んだ17の年から、美しいひとの名前だ。
いつ読んでも、時の流れに色褪せぬ瑞々しさに目を瞠る。
昔の恋人ピーター・ウォルシュが突然訪ねてきて、あてつけ半分に自分は今ある女に恋をしている、と告げた再会のシーン。
クラリッサは彼の偽悪的な口調を観察しながら、相手の女のことを悪い女だと想像しながら、彼が未だに若いときのナイフをいじる癖を持っているのに苛立ちながら、「でも、このひとは恋をしている」「このひとは恋をしている」と繰り返し繰り返し感じる。あの永遠の若さのあえぎ、柔らかな風にほんのすこしずつ乳房を摘み取られていくよな狂おしさ。

舞台はロンドン、ビッグ・ベンの聞こえる範囲。時代は第一次大戦終結直後。登場する人々は、幼馴染のヒュー、昔憧れた女友達サリー・シートン、夫リチャード、娘エリザベス、自殺してしまうセプティマスと気の毒な妻ルチア、そしてもちろん植民地インドから帰って来たピーター・ウォルシュ。有力な人々、無力な人々。ペンは風のように鐘の音のようにロンドンの町を飛び響き、人々の感じるままを言葉に変えていく。この小説の主人公は流れゆき二度と返ることのない時間かもしれない。その時間の中で、人はなんて、様々に物思うのだろう。
ピーター・ウォルシュはクラリッサは老けたな、と思う。ピーター・ウォルシュはクラリッサは俗物だ、と思う。ピーター・ウォルシュはクラリッサは薄情だ、と思う。会いたくないと思う。二度と会うまいと思う。会いたいと思う。会いたい、会いたい。

目を見張るほど完璧な終盤、こんなに好きなラストシーンは他にない。
ダロウェイ家のパーティーで、ピーターは女主人クラリッサが自分のところに話しに来てくれるのをずっと待っている。昔馴染みサリー・シートンと語らいながら。彼らは、離れ離れでいた日々が自分たちの人生観をどのように揺るがしたかについて話す。
サリー・シートンは言う、感ずることだけが言う価値のあることだと思うようになったと。「利口さは馬鹿げてるわ。人は感じるままを言わなければならないのよ」。
ピーターはサリー・シートンに打ち明ける。自分には、自分の感ずるところがわからないのだと。人生は単純なものとは思えないと。「クラリッサとの関係は単純なものではなかったんです。それは僕の一生を台なしにした。二度と恋はできません」。
それでもピーターはこうも言うのだ。若いときにはあまり興奮しすぎて、ひとを知ることができないけれど、年をとって、成熟すると、観察することができ、理解することができ、しかも感ずる力を失わずにいる、悲しいかな。しかし人はそれを喜ぶべきなのだと。
私はある狂気が自分の身のうちにあることを知って震えてしまう。それはある日ヴァージニア・ウルフを水底へ連れ去った狂気だ。年を増すごとに感じることが増え、人生などこの一瞬一瞬に感じるままでしかないことを刻々と思い知りながら、いつか死んで消滅するしかない私達。美しくて無意味な、いとおしくて役に立たない、私達の人生。それを稀代の鋭敏な感性によって見つめつづけた天才ヴァージニア・ウルフの苦しみはいかばかりだったろう。ほんとうに、どんなに、どんなに、辛かっただろう。

そしてサリーが立ち去った後、あの決定的な瞬間が訪れる。
時間のなかで千々に乱れる特別な誰かへの思いがひとつの閃光となって、いつも賢くあることなどできない愚かな私に落雷する。私は深く頭を垂れてそれを受けるしかない。憎く思い信じきることが出来ず後悔し足摺し忘れようとあがいた、その感じた思いの一つ一つが突如臨界点を超え、その存在に深く雪崩れ込むのだ。美しいから、善良だから、立派だから愛したのではない、ただその深い存在そのものを絶望的に愛してる。

「僕も行きます」とピーターは言ったが、しばらくそのまま腰かけていた。この恐怖はなんだ?この有頂天はなんだ?と彼は心に思った。ただならぬ興奮でおれの全身をみたすものは、何者だ?
クラリッサだ、と彼は言った。
なぜなら、クラリッサがそこにいた。


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