びぶりおふぃりあ  ブックレビューとオススメの海外ドラマ・映画のあらすじと感想。顔面血管腫(赤アザ)カバーメイク体験談

読売文学賞

ここでは、「読売文学賞」 に関する記事を紹介しています。
はてなアンテナに追加   

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手

オススメ度:☆☆☆☆☆
オススメ対象:難しいな。。
オススメポイント:三島の手を見よ。
金閣寺金閣寺
三島 由紀夫

新潮社 1960-09
売り上げランキング : 3,217
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



肉体上の不具者は美貌の女と同じ不敵な美しさを持っている。不具者も、美貌の女も、見られることに疲れて、見られる存在であることに飽き果てて、追い詰められて、存在そのもので見返している。見たほうが勝ちなのだ。弁当を喰べている柏木は伏目でいたが、私には彼の目が自分のまわりの世界を見尽くしていることが感じられた。

私の左頬には、生まれつき赤いあざがある。
見える場所に人と違う何かがある、というのは、例えば機能的な障害とは違うことのように思う。機能とは、たぶんそれ自体とても独立したもので、そこには清潔な価値がある。でもただそれが見た目だけの障害だった場合、それを持つ者の抱える問題はひどく抽象的になる。
それは容易に想像されるような「多くの人と違う」、ということではなく、「多くの人が見なくて済むものが見えてしまう」ということだ。
私はそれを、人と人をさえぎる透明の壁だと思っている。私達は誰でもその壁にさえぎられているけれど、平時はそれに気付かずに暮らしている。しかし落とし穴に落ちたように突如その壁に突き当たる人もいれば、私のようにその壁に赤いあざが張り付いて、子供のころからまざまざとそれを見せつけられるということもある。
問題はあざではなく、透明の壁なのだ。そのことに気付くのに、私は二十年以上の歳月を費やしてしまった。他の人々が思春期を過ごし青春を謳歌する間、私は泥臭い経験を幾千も積み上げ、やっとのことでそれを自分の言葉に捉え、やっと軽蔑を脱し人間にリンクすることができたのだった。

さておき先の引用箇所を初めて読んだ時、まだ私はその個人的な戦いの最中にあった。そしてそのとき初めて、才能というものの優しさを知ったように思う。
私もまさに見られることに疲れ、存在そのもので見返していた。
誰も言葉にしてくれないことを、言葉にしてくれること、その解放。言葉というものの持つ力。言葉が解き放つ呪縛。優しさは思いやりや愛にだけではなく、才能というものにもあるのだ。

三島は観念を具現化する鬼で、読みながら対話し知恵比べしているようなスリルを味あわせてくれる唯一の作家だ。金閣寺がこの小説の中で象徴する役割、童貞を捨てるのに失敗する場面で主人公の脳裏に浮かぶ金閣寺の像など、「観念的過ぎて説得力がない!」と切り捨てたくなることしばしばだ。しかし三島は私の考えを読んでそれに応えるように、さらに観念を押し進めてくる。蜜蜂と菊の戯れ、南泉斬猫の講話などで、これでもか、これでもか、と打ちたててくる。そして逆説的に金閣寺を実在させてしまう。
その支えの力強い手。見るとそれはごつごつとした骨に筋肉のついた男の手だ。三島は、色っぽい。
けれど簡単に心揺さぶられないのは、描かれるあらゆることが象徴を託されているせいだ。無意味の余地が全くない。
たとえば不具。不具というものの役割、象徴性。不具とは三島作品で期待されているほど絶対的なものではないと、私は感じている。
主人公はどもりに、柏木は内翻足に、最初から最後まで閉じ込められている。でも、性欲の理不尽さは美醜をしばしば凌駕するし、そもそも愛はたぶんもっと、残酷なものなのだ。けして理由や絶対性を見せては、くれない。
私達を隔てる透明な壁、そのゆがみ、その厚み。問題は不具でも美しさでもなく目に見えないこの壁なのだ。私達は苦しみによってしかその壁をなぞることができない。ごつごつとした生の感触、その痛み。意味を求めるべきは苦しみにであって、不具そのものには期待するほどの意味はない。
誤解を恐れず言えば、不具そのものの意味など陳腐なのだ。
さて。私はそう言い切って三島を切り捨てる。主人公が金閣寺を燃やしたように。猫を斬ったように。
そして立ち上がろうとすると、三島の見透した最後の行はどうだ。

別のポケットの煙草が手に触れた。私は煙草を喫んだ。一ト仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。

私の負けだな、と私は呟く。
そうだったのか。すべてこのため、最後に惜しげもなく崩すため、打ちたてた観念だったのか。観念は燃やされ、生はこれから湧き起こるのだったか。
そしてそのとき眼前にまばゆく金色に立ち現れるのだ、燃えてしまったはずの金閣寺が。

☆面白い、と思ったらここをクリック!☆

ブログランキング



web拍手

スポンサーサイト

関連タグ : 三島由紀夫, 読売文学賞,


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。