びぶりおふぃりあ  ブックレビューとオススメの海外ドラマ・映画のあらすじと感想。顔面血管腫(赤アザ)カバーメイク体験談

2005年11月

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オススメ度:☆☆☆☆★
オススメ対象:危険なカーブを曲がったひとへ
オススメポイント:凡庸さは安心ではない。残酷な話だ。
4062749068回転木馬のデッド・ヒート
村上 春樹

講談社 2004-10
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「去年、仲良くなりはじめたころ、私、どんな風に見えた?」
鍋の湯気越しに、たずねてみる。
「どんなふうって?」
と連れは訊きかえす。
最初に頼んだサラダがことのほか腹にたまり、そのほかあれこれ頼んだもののあとだった。鍋を雑炊で仕舞うことはできそうにないな、と思った。
店は第一波で来店した客がちらりと帰り始め、新しい客がまた入っている、いつもどこかでグラスのぶつかる音が人の声に包まれてやわらかく響いている、そんな時間帯だった。
「あの頃私、ちょっとした人生のスランプに陥ってたの。」
「スランプ?」
意外なことを言われると彼は一瞬息を止める。そして心に言葉が落ち着くまで独り言めいて喋るのだった。
「どんな?え?どういう?・・いや、いずれにせよそんなふうには全然見えなかったよ。」
彼は思い起こすようにして言う。箸がとまり、宙をぎゅっと見詰める。彼の心に甦った私の像。それを見ることはどうやってもできないけれど、いつか”○○さんは前はもっと・・・もっと男っぽかったよ”と非難された、男っぽかった私なのかもしれない。
でも、と私はあん肝をすりつぶしたスープで見えない鍋の底を探りながらふいに、俄然、たのしくなってしまうのだ。今の私でいいのだ。そう知っている。
「ね。そんなふうに、みえなかったよね。」
私はすっかり嬉しくなって笑ってしまう。胸の底から転がるように笑いが沸き起こる。

それはちょっとした人生の危機だった。
32歳。手に職があって、収入も悪くない。土曜日にはカナダ人の家庭教師に英語を習う。毎晩電子ピアノで学生時代のレパートリーを練習する。時々小説を書く。ピアノも小説も、夫は意外にも的確な批評をして驚かせる。料理だけは偏食が強すぎて、批評以前に失格な彼だけど。忙しがっているわりには旅行も行く。少なくない友達がいる。占いは私にとって「好きではないけれど似合うといわれるので着ている服」のようなもの。それによると私は生涯孤独とは無縁、夢を叶え人に恵まれ富を得て長く生きるそうだ。
なんだこれは。わりと結構な人生のように見えるじゃないか。でも問題は、それが私の人生ではないように見えるということだった。
全てをコントロールしているという感覚。なんだかこいつが絶望的で、人生を陳腐に貶めてくれる。はじけて地面で雨に打たれている風船のなれの果て。
もう残りは消化試合なのか、このままゆるやかに老いていくのか。
もうワタシハ、二度ト傷つくこともナイのカ。

「回転木馬のデッドヒート」は、そんな人生の穏やかな狂気を見事に捕らえている。
人生は穏やかであってはいけないのではないか。
人は凡庸であってはいけないのではないか。
それが本当にこんなにも恐ろしいものであるのならば。

「それでそのスランプはどうやって抜けたの?もう終わったの?」
さて。
私は微笑む。
そして答える。

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