オススメ度:☆☆☆☆★
冒頭:
あらすじ・概要:
ドイツに居住し、ドイツ語でも創作をする多和田葉子がさまざまなシンポジウムやワークショップに参加しながら考察した様々な言語のエクソフォニーのエッセイ。
感想:
エクソフォニーとは、母語以外で創作された文学のこと。
この本は一部と二部に分かれ、一部はは世界各国の都市名をタイトルとし(パリ、ボストン、モスクワ・・・)、その都市での出来事をきっかけとしてエクソフォニーを語っている。
二部はドイツ語や日本語の単語をゆっくりめでながら、構造に見られるルーツ、また逆に他人の空似とも言うべき音韻や視覚の類似を示し、偶然性の生み出すあらたな表現の可能性を見出していく。
第一部「ロサンジェルス」で「それに、わたしはたくさんの言語を学習するということにはそれほど興味がない。言葉そのものよりも二ヶ国語の間の狭間そのものが大切であるような気がする。わたしはA語でもB語でも書く作家になりたいのではなく、むしろA語とB語の間に、詩的な峡谷を見つけて落ちて行きたいのかもしれない。」と語っていることの実践だろう。
しかし、一部の方が面白い。
言葉を探し当てるときの凝縮された時間やこれだという表現を見出したときの脳の中で化学反応が起こるかのような熱の感覚は共感できる。
「マルセイユ」で行われた作家交流プログラムで意味がわからないフランス語を一日何時間も耳を傾けてセッションしていくうちに起こった神秘的な異変、お告げのような夢。
こういったものを読ませてもらうと、多和田葉子がこのようなプログラムに参加できる環境に身を置いていることが私にとっても(きっと私たちの文化にとっても)幸運だと感じる。
また、ベルリンで性をテーマにした文学フェスティバルに呼ばれ、「ヘテロセキュシュアル文学」(異性愛)、「ホモセクシュアル文学」、「フェティッシュとサドマゾ」、という分類のいずれにも多和田葉子は入らず、「その他」という集まりに呼ばれた、というのはわが意を得たりであった。
ライフワークとなっているピアノと朗読とのセッションについて語っている部分もあるので、朗読に興味がある人は目を通しておくと良いだろう。
「モスクワ」にはちょっとショッキングなことも書かれている。多和田葉子の言葉ではなく沼野充義の「W文学の世紀へ」からの引用なのだが、「一ページに一個や二個、誤訳のない翻訳書は存在しない、すると三百ページの本なら五、六百は誤訳があることになる」というのである。外国語ができない以上、必ず間違いを含んだ情報に頼るしかないとは、考えてみれば当然のことではあるが、恐ろしいことではあるまいか。産地偽装とまでいうと悪意や犯罪の領域になってしまいたとえとして不適切かもしれないが、流通の中、消費者は無力にならざるを得ないの感は共通である。見ぬもの清しという言葉もあるが・・。
「ボストン」での、「作者が移民であることは、文学にとって本質的なことではない。しかし、文学そのものの持つ移民性を照らし出すために、移民である作家について考えることが役に立つ場合もあるだろう」というくだり、文章としては説得力があるけれど、「文学そのものの持つ移民性」ってなんなのかがまるでわからない。言及されてもいない。筆がレトリックに滑ったのだろうか。それとも私が不勉強なだけなのか。「文学の移民性」についてご存知の方はぜひ教えてほしい。私は本気です。よろしくお願いします。
「ソウル」には朝鮮半島での日本の過去、およびそれが清算されていないことのためにはっきりとものが言えない、という実に煮え切らないことが書かれており、がっかりした。ほとんど幻滅したと言ってもいいくらいだった。
エッセイは深い落とし穴のあるものだ。誰でも書けるがいてなかなかうまく書けない。ことにこういったまじめな題材となると、専門以外にも深い教養が試されてしまう。多和田葉子の本作はこと言葉と創作という分野においてはさすがとうならせられることしきりの上質なエッセイではある。しかし意外とドイツ語および創作以外のこと(日本語の成り立ちや近代史について、政治家について)は詳しいわけでも一家言あるわけでもなく、成績の良い学生並にとおりいっぺんの知識なんだな、というところも見えてくる。
DATA:
10進分類:913.6
内容分類:純文学
メインテーマ:不明
著者名:
著者出身国:日本
時代背景:現代
漢字の難しさ ☆★★
表現の難しさ ☆★★
文体の読みにくさ ☆★★
テーマの重さ ☆☆☆
テーマの難解さ ☆☆☆
テーマの普遍性 ☆☆★
所要時間:(15分刻み)
1時間30分
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冒頭:
二〇〇二年十一月、セネガルのダカール市で開かれたシンポジウムに参加した。
あらすじ・概要:
ドイツに居住し、ドイツ語でも創作をする多和田葉子がさまざまなシンポジウムやワークショップに参加しながら考察した様々な言語のエクソフォニーのエッセイ。
感想:
エクソフォニーとは、母語以外で創作された文学のこと。
この本は一部と二部に分かれ、一部はは世界各国の都市名をタイトルとし(パリ、ボストン、モスクワ・・・)、その都市での出来事をきっかけとしてエクソフォニーを語っている。
二部はドイツ語や日本語の単語をゆっくりめでながら、構造に見られるルーツ、また逆に他人の空似とも言うべき音韻や視覚の類似を示し、偶然性の生み出すあらたな表現の可能性を見出していく。
第一部「ロサンジェルス」で「それに、わたしはたくさんの言語を学習するということにはそれほど興味がない。言葉そのものよりも二ヶ国語の間の狭間そのものが大切であるような気がする。わたしはA語でもB語でも書く作家になりたいのではなく、むしろA語とB語の間に、詩的な峡谷を見つけて落ちて行きたいのかもしれない。」と語っていることの実践だろう。
しかし、一部の方が面白い。
言葉を探し当てるときの凝縮された時間やこれだという表現を見出したときの脳の中で化学反応が起こるかのような熱の感覚は共感できる。
「マルセイユ」で行われた作家交流プログラムで意味がわからないフランス語を一日何時間も耳を傾けてセッションしていくうちに起こった神秘的な異変、お告げのような夢。
原色の蛇が地べたをなまなましく這いまわり、木の芽がぎらぎら光っている。その芽の緑が、見ているわたしと見られているわたしとの間の隔たりを超えて、わたしの中に伸びてくる。しかも、蛇や芽の「実体」が言語だということがはっきりとわかる。(中略)ちょっと空気が震えただけで、泣いたり、喚き散らしたり、人を殺したくなる。
こういったものを読ませてもらうと、多和田葉子がこのようなプログラムに参加できる環境に身を置いていることが私にとっても(きっと私たちの文化にとっても)幸運だと感じる。
また、ベルリンで性をテーマにした文学フェスティバルに呼ばれ、「ヘテロセキュシュアル文学」(異性愛)、「ホモセクシュアル文学」、「フェティッシュとサドマゾ」、という分類のいずれにも多和田葉子は入らず、「その他」という集まりに呼ばれた、というのはわが意を得たりであった。
ライフワークとなっているピアノと朗読とのセッションについて語っている部分もあるので、朗読に興味がある人は目を通しておくと良いだろう。
「モスクワ」にはちょっとショッキングなことも書かれている。多和田葉子の言葉ではなく沼野充義の「W文学の世紀へ」からの引用なのだが、「一ページに一個や二個、誤訳のない翻訳書は存在しない、すると三百ページの本なら五、六百は誤訳があることになる」というのである。外国語ができない以上、必ず間違いを含んだ情報に頼るしかないとは、考えてみれば当然のことではあるが、恐ろしいことではあるまいか。産地偽装とまでいうと悪意や犯罪の領域になってしまいたとえとして不適切かもしれないが、流通の中、消費者は無力にならざるを得ないの感は共通である。見ぬもの清しという言葉もあるが・・。
「ボストン」での、「作者が移民であることは、文学にとって本質的なことではない。しかし、文学そのものの持つ移民性を照らし出すために、移民である作家について考えることが役に立つ場合もあるだろう」というくだり、文章としては説得力があるけれど、「文学そのものの持つ移民性」ってなんなのかがまるでわからない。言及されてもいない。筆がレトリックに滑ったのだろうか。それとも私が不勉強なだけなのか。「文学の移民性」についてご存知の方はぜひ教えてほしい。私は本気です。よろしくお願いします。
「ソウル」には朝鮮半島での日本の過去、およびそれが清算されていないことのためにはっきりとものが言えない、という実に煮え切らないことが書かれており、がっかりした。ほとんど幻滅したと言ってもいいくらいだった。
エッセイは深い落とし穴のあるものだ。誰でも書けるがいてなかなかうまく書けない。ことにこういったまじめな題材となると、専門以外にも深い教養が試されてしまう。多和田葉子の本作はこと言葉と創作という分野においてはさすがとうならせられることしきりの上質なエッセイではある。しかし意外とドイツ語および創作以外のこと(日本語の成り立ちや近代史について、政治家について)は詳しいわけでも一家言あるわけでもなく、成績の良い学生並にとおりいっぺんの知識なんだな、というところも見えてくる。
DATA:
10進分類:913.6
内容分類:純文学
メインテーマ:不明
著者名:
著者出身国:日本
時代背景:現代
漢字の難しさ ☆★★
表現の難しさ ☆★★
文体の読みにくさ ☆★★
テーマの重さ ☆☆☆
テーマの難解さ ☆☆☆
テーマの普遍性 ☆☆★
所要時間:(15分刻み)
1時間30分
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