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「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」(村上春樹/新潮社)

ここでは、「「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」(村上春樹/新潮社)」 に関する記事を紹介しています。

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オススメ度:☆☆☆☆☆
オススメ対象:不思議の国のアリスよりも鏡の国のアリスが好きな人に。自分のスタイルを確立できないことに疲れた人に。
オススメポイント:様式が整っており、謎も楽しめる。
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耐え難いのは、教室で昨日と同じ席に座ること。
自由にどこにでも座っていい、と言われたクラスは選択で生徒は少なく、座席はほとんどが空いていた。
だから私は毎回違う場所違う人の隣に座った。
「君はちょっと変わってるね。ちょっぴりどこかがおかしいかもね」
教師は言った。
昨日と同じことを繰り返すのは耐えがたかった。
反復する日常の枠からいつもはみ出てしまう。
この世界で一番残酷な違いは砂糖と塩とか、天国と地獄とか、そんな違いではなくて、砂糖と電車、戦争とアルマジロ、噴火とほくろ、そんな違い。ドアは開けても開けても前とは違うジャンルの音楽が鳴り響き、どの部屋にもい続けることなんかできないし、何やっても何か違うそのくせ、何かやらないで生きるにはあまりに長すぎる人生、何かやろうとするととたんに短い人生、どきどきがどんどん大きくなっていく。
「それ」は全然見つかんなくて、世界はいつも「もっと何か別のこと」に満ち満ちてて、膨らみ続ける風船が私の居場所をきゅうきゅう圧迫する。

若さが苦しい。

「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」はそんな若き日の私に安らぎをもたらしてくれた本のひとつだ。私は飽かずこの本を読んだ。最初は父のハードカバーで、やがて自分で買った文庫本で。誰かに貸した文庫が返ってこなければまた新たに書店で求め、繰り返し、繰り返し。
不思議なものだ、昨日の繰り返しは嫌なのに、本は繰り返し読めるなんてね。

同じ安らぎをもたらしてくれる本が、他にもあった。それは数冊の料理の本だった。
素材別の調理法の本、一般的な献立の基礎の本、おもてなし用のご馳走の本、弁当用の本。
にくじゃが・ビシソワーズ・ミートローフ・冷凍庫クッキー・鶏のキジ焼き・チキンライス・ババロア・豆腐の卵とじ、茶巾寿司。
何度も読むうちにその料理のコツや味の特徴がレシピから読み取れるようになった。よく出来たマニュアルがそうであるように、それらの本の簡潔さは雄弁だった。どのスパイスが肉の臭みを抜くのか、どの工程でどの材料がどういったやわらかさに火が通っていなければならないのか、口に入れたときにどのような食感になるのか。わかりやすさのために割愛されているさまざまなことが、繰り返し読むことで行間から、たとえば材料の切り方や鍋に入れる順番から、あぶりだされてくる。読めば読むほど奥が深く意図が細部に宿っている。
私は何度も読み返しては頭の中で献立を組み、全体の手順をシミュレートした。
ちょうど母が家を出て行った頃だったから料理はすぐに役に立ち、受験の準備の合間に私は腕を上げた。
それが嵩じて高校三年の夏には料理の専門学校に資料請求までした。
料理をするのは好きだった。父も弟も友達も私の料理を喜んだ。私も彼らに料理を食べてもらうのが大好きだった。でも私はやはり「その部屋」にもとどまることはできなかった。資料は捨てた。最初から、料理人を目指すつもりなんか、それどころか、目指すつもりになる可能性を信じる気すら、ちっともなかったのかもしれない、とそのことに苛立った。
私には「何かになる」ことはできなくてどうにも自分であることしかできなくて、でも自分が何なのかわからないままどきどきがどんどん大きくなる、世界は膨らみ続けている。

今にして思えば、私はこの本にスタイルを求めていたのだと思う。確立された、秩序を。
料理の本に摂理を求めていたように。
ハードボイルドワンダーランドの主人公の持っている、こまごまとしたコダワリ(実にソファーや車の選び方やサンドイッチの作り方に至るまで)や、世界の終わりに在る秩序が、私にささやかな安らぎをもたらしていたのだ。
受験の準備の合間に埃っぽいヒーターの前にうずくまるようにして本を広げ、時にキッチンに立って料理を作った。そして私自身の問題や出て行った母のことや進学のことがいつも「もっと何か別のこと」に変化し続けて私を圧倒する混沌の嵐のさなかに、他人のスタイルを借りてやっと、息つける場所を確保していたのだ。

若さは、今も苦しい。

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コメント
この記事へのコメント
上ってことは中とか下もあるのかな?
なんだか読みたくなってきました。
2005/09/03(土) 13:45 | URL | さるる #-[ 編集]
上下巻です☆
購入の際はぜひここのリンクから買いに行ってくださいませ!v-238
2005/09/05(月) 00:48 | URL | あにょ #-[ 編集]
昨日の夜に上下読み終えてしまった。
最初はわけが分からなかったけど、なぜか吸い込まれるように読んでしまった。
読み終えると、よくわからないけど、ちょっと切なくなりました。
読んでよかったです。ありがとう。
2005/10/04(火) 19:37 | URL | さるる #-[ 編集]
こちらこそありがとう。
ここから買って読んでくれる人がいるんだって思うと、正直で面白いブックレビューを書くぞ!ってはげみになります☆
2005/10/04(火) 21:06 | URL | あにょ #-[ 編集]
トラックバックをありがとうございました。
『世界の終わり~』は今でも大好きな作品です。
心がかじかんで、血を通わせたくなったときに、
いつも読んでいます。
ちょっと説明の難しい作品ですけどね~(笑)

また時々、立ち寄らせていただきますね☆
2005/10/11(火) 04:30 | URL | shore #-[ 編集]
トラックバックありがとうございます。
「世界の終わりと~」は、村上春樹の長編の中でも1・2を争うマイ・フェイバリット作品なんですよね。

今の春樹さんが書き直したら、いったいどんな結末にするのか、非常に興味があります。
2005/10/11(火) 11:42 | URL | サイトキャッチャー1号 #yN8kF7mE[ 編集]
shoreさん
心がかじかんだとき、・・いいこと言いますね!

ネットキャッチャー一号さん
確かに今だったら違う結末かも
おふたりともコメントありがとうございます。
誰が言ったか知りませんが世界の終わり、はマニア好みと聞きました。
我々はマニアなんでしょうか。
2005/10/11(火) 22:22 | URL | あにょ #-[ 編集]
スタイルのある書評ブログですね!素敵です。自分はなっかなか本読めてないんですが、徐々にもっと読んでいこうとおもっちょります。それでは、また。-_-
2005/10/12(水) 01:15 | URL | pinoco_o #tHX44QXM[ 編集]
ありがとうございます。
私も最近ではなかなか読書の時間がとれずにいます。もっぱら通勤電車の中です。
またきてください☆
2005/10/12(水) 03:12 | URL | あにょ #-[ 編集]
TB、ありがとうございます。
素敵な感想を読ませていただきました。
料理が結びついているのが、初期の村上作品と
マッチしてます。

本って、そのときどきに出会いがありますね。
そのときだから心に沁みたのか、
心に沁みる本を呼び寄せたのか……

両方正解なのかもしれませんね。

2005/10/12(水) 21:25 | URL | 金の猿 #-[ 編集]
ごめんなさい、名前を間違えてしまって。
直そうとしたんだけど、パスワードいれてなかったのでなおせませんでした。
2005/10/12(水) 23:38 | URL | あにょ #-[ 編集]
コメントありがとうございます。
出会いって、ありますね。
本でも、人でも、ちゃんとそのとき必要なものと、出合うようになってますね。
またおいでになってください。v-238
2005/10/12(水) 23:40 | URL | あにょ #-[ 編集]
あたしが読んだのは分厚いピンクの初版本でした。
今は文庫で上下なんですね。
あたしのように中年になって読み返しても
十分耐えうる本です。
この本は若い人に読んで欲しい本です。
いい本とはそういうものですw
村上春樹は100年後も読まれていると思います。
あたしは確信してますw
では。また。
2005/10/21(金) 02:47 | URL | ユロ #xfH9rAAU[ 編集]
ユロさん。コメントありがとうございます!
最近ハードカバーの新装本が出てるみたいなんですよ。
私はまだ見てないんですけど、書店に並んでいるみたいです。
見かけたら教えてください☆
2005/10/21(金) 10:10 | URL | あにょ #djxH/9eE[ 編集]
こんにちわ、トラックバックありがとうございました。
未だ、村上さんの本をこれしか読んだことが無いのですが・・・とても不思議な感覚に陥りました。
もっと読み込んで行きたいです。

あにょさんの書く文章、素敵です。私もこんな風に書き連ねてみたいと思いました。

では、失礼します。
2005/10/22(土) 16:41 | URL | 灯 #mQop/nM.[ 編集]
やさしいことばをありがとうございます。
これからも書いていきますので、またあそびにきてくださいね。

村上春樹は他にも面白い本をいっぱい書いているので、ぜひ読んでみてください。
私は「羊をめぐる冒険」「遠い太鼓」、あと初期の短編が好きです☆
「ノルウェイの森」は好みではないですが、良い作品だと思います。
2005/10/24(月) 00:11 | URL | あにょ #4oy1sJfI[ 編集]
遊びに来てくれてありがとうv-20
心に響く本って、何度読んでも面白いですよね。
その度に違う世界や感動を味わえるv-111私も『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』は何回も読みました。
・・・私の場合、『v-236こんな文あったっけv-236』とかも思いながら・・・(笑)
『オススメ』のポイントと対象がイイですね!!

また来ます!!!
2005/10/31(月) 11:18 | URL | h-terasaki #ETBIkCwg[ 編集]
いやあ面白かった、
5年ぐらい前に一度読んだんですが、
話の内容をすっかりわすれていたようです。

世界の終わりに住む主人公の最後の行動は
文中では「責任」と表現されていますが、

自分自身で蓋をしてしまった思いや、
忘れてしまった物事にもう一度
心を吹き込んでいくことで、
そうすることで閉ざされた
自分の心の世界に祝福がもたらされると
いうことなのかなあと思いました。

いやあ面白い小説ですな
2005/11/01(火) 03:16 | URL | クマー #-[ 編集]
h-terasaki さん
こちらこそ、遊びにきてくれてありがとう!
なんか、何度読んでも納得いかない部分があったりもして、そこも魅力かな、って思います。
ピンクの太った娘が、「せら」って言ってるのはなんだったんだろう、とか。。

クマーさん
最後の終わり方、ハードボイルドですよね。
ああ、ハードボイルドって、そっか、そういうことだったのか、って、読み終えるとき、思うんです。
2005/11/04(金) 00:57 | URL | あにょ #-[ 編集]
初めまして☆
自分のスタイル・・
私が求めているものも同じような気がします。
本はあまり読まないんですが、
村上春樹攻めてみようと思います。
オススメあったら教えて下さい。
2005/11/12(土) 18:03 | URL | Tommy #-[ 編集]
私はエッセイの「遠い太鼓」、小説だったら「羊をめぐる冒険」が好きです。
羊をめぐる冒険は、風の歌を聴け、から読んだほうがおもしろいですよ。
ぜひ読んで感想を聞かせてください!
2005/11/13(日) 00:57 | URL | あにょ #djxH/9eE[ 編集]
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