fc2ブログ

ブックレビューとオススメの海外ドラマ・映画のあらすじと感想。顔面血管腫(赤アザ)カバーメイク体験談

鍵のない夢を見る (辻村深月)

オススメ度 ★★★★☆
オススメポイント こわい


毎月29日は、BOOKOFFで300円オフのクーポンが出る。
アプリに届く。
私はそれを、中2の娘にあげる。

娘は漫画が大好きだ。しまう場所もないくらい漫画を買いあさっていて、いくらあってもお金が足らない。
限られた小遣いで新刊を買ってウンウン唸っていたので、ある日BOOKOFFに連れて行った。

親の勧めることは脊髄反射で全否定、というのがこの2年ほど、正しく思春期である娘のありようなのだが、このときばかりは『中古で安く本が買える』という事実に驚愕し、素直に人生を塗り替え、以来、欲しい漫画はまずBOOKOFFに販売していないことを確認してから本屋に行くようになった。

そしてBOOKOFFが29日をブックの日として(肉の日ではなく)クーポンを出していることを把握すると、その日まで買いたい漫画をがまんすることを覚えた。

さて今月は、私も29日に本を買ってみた。

中古でもともといくらか安くなっているものを、この日は更にお得に買える。そんな日であっても選びきれないほど欲しい漫画がある娘は、とてつもない時間をかけて、買う漫画を吟味している。

イライラするほど長いその時間を穏やかに過ごすため、たわむれに、私も本を選ぶことにしたのだ。もうよっぽどの愛読書でないかぎり電子書籍にするつもりだったのに。

まあ、良い機会だと思うことにして。
新しい文章、新しい物語に出会ってみようということで。
人気のある作家の人気のある本、という基準で3冊を選んだ。

その中の一冊が、辻村深月さんの『鍵のない夢を見る』である。

この本は2012年に直木五十六賞を受賞しており、正真正銘の『人気のある作家の人気のある本』である。
たくさんの小説が映像化されているし、身の回りの人の間で、『面白い本を書く作家』としてしょっちゅう名前が上がっていた。にも拘わらず、今まで読む機会がなかったのが不思議だ。デビューから二十年近く経っており、多作でもあるのに。

目次

仁志野町の泥棒
石蕗南地区の放火
美弥谷団地の逃亡者
芹葉大学の夢と殺人
君本家の誘拐

中編が5つ収められている。
この本のタイトルとなっている『鍵のない夢を見る』と同じ名前の話はない。つまり、この本全体にたいして、『鍵のない夢を見る』という題名が付けられているのだ。特別に。

良いタイトルだと思う。

どの物語も犯罪事件を取り扱っているが、よくあるミステリーでソリッドに語られる事件ではなく、『暮らし』の日常と『犯罪』の非日常の境界を、ひたすら気分と肌感覚で表現していくというような、どこか気持ちの悪い、船酔いに似た読み応えの小説である。

鍵のない夢、というのが、言い得て妙だと思う。

中編の並び順にも、意図があるように感じる。

どことなく時系列に並んでいるような、別々の人物の話ではあるものの、徐々に主人公の年齢(あるいは社会的なステージ)が上がっていく。

『仁志野町の泥棒』は、面白くはあるものの、少女時代の思い出という食傷気味の設定だったし、気分が中心の描写がしっくりなじまず、読み進めるかどうか私にとってぎりぎりのラインだったが、『石蕗南地区の放火』で、「あれ?この人(作者)、ちょっと変なんじゃない?」と気になりはじめ、『美弥谷団地の逃亡者』ではショッキングな幕切れにすっかりやられてしまって、もはや今日、この本を途中で置くことなどできるはずもない、という心境である。

夢中になって読んでいる私に、「辻村深月さんはね、『かがみの孤城』がいいのよ」と娘が話しかけるのさえうるさく、私はページを繰り続けた。

『芹葉大学の夢と殺人』はその前の『美弥谷団地の逃亡者』から畳み込まれるようなサイコパスの恋人に完全にノックアウトされてしまった。なんという夢だ。性の描写も彼をよく表していて、読後には元カレのような錯覚が残る。未練ではなく、うとましいのだ。

そして最後の『君本家の誘拐』。
そこまでの4話はどれも、「関わってはいけない人と関わってしまった話」だが、『君本家の誘拐』は主人公の心で起こる。
もどかしさを促す構成で、まんまとハラハラさせられたけれど、最後にこの話を持ってきているのは救いがある。

やはり、並び順にも、意図があるのだろうか。




関連記事