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オススメ度:☆☆☆☆★
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オリヴァー・トゥイスト(上) (ちくま文庫)
チャールズ・ディケンズ 小池滋
筑摩書房 1997-12-04
評価

by G-Tools , 2017/01/29



19世紀のイギリスで、人々がどのように生活していたのか、二百年経った今も古びない、楽しく分かりやすい物語でいまに伝える物語。

貧しい生まれ故に行き場を失い、9つでユダヤ人フェイギンの窃盗団にかどわかされたオリバーは、見る人を魅了してやまない天使の美貌によって悪人からも善人からも引く手あまた、オリバーをめぐる悪人たちと善人達の攻防がドラマを生み、やがてオリバーの出生の秘密を解き明かしていく。

窃盗団が盗むめぼしいものとして、ハンカチがあるのが面白い。現代ではハンカチなどスリをしてまで手に入れるほど価値のあるものでないし、人が使っていたハンカチを中古で使う感覚はない。でもこの当時は中古のハンカチを売る店があり、その仕入先はスリたちだったらしい。
彼らは立派な紳士のポケットから絹のハンカチを鮮やかな手つきで取り出して持ち帰り、イニシャルの刺繍の縫取りを取る。フェイギンのアジトには洗濯したハンカチが所狭しと干してある。

ストーリーに多少のご都合主義はあるが、批判する程のことはないように思う。偶然助けてくれた人と実は深い縁があるとか、まさかそんな、というほどの世間の狭さはいくつか現れてくるが、そこでここぞとばかりに神様だの善行だのをひけらかしてこないで、案外あっさりと通り過ぎるからだ。

その一方で、貧しい人々の悲惨な境遇については現代に通じるリアリティがある。
フェイギンの一味である売春婦ナンシー、オリバーに肩入れした彼女は物語の転換でとても重要な役割を演じる勇気のある女だが、情人である怪力の悪党サイクスから激しいDVを受けていてもその境遇から抜け出すことができない。

「わたしみたいに、自分の身を間違いなく雨露から守ってくれるものといったら棺桶の蓋しかなくて、病気になって死にかかっても、友達といったらお助け病院の看護婦しかいない、そんな女が、どこかの男に哀れながらも思いを寄せたとしたら、昔は両親や家庭や友達が暖かい火をともしてくれたけれど、みじめな暮らしを続けているうちに空っぽになってしまったこの胸のうちが、やっとその男のお蔭でまた暖かく燃えそうになったとしたら、そんな愚かな女を、誰が正気に戻らせることができましょうか? お嬢さん、憐れんで下さい――あたしたちみたいな女が、女に残されたたった一つの情けに未練を感じたために、それが神様の罰によって慰安や誇りの種とはならず、逆に乱暴と苦しみを増す種になってしまったことを、どうか憐れんで下さい」
自分の言葉の通り、サイクスへの未練のために彼の元に戻ったナンシーはサイクスに殴り殺される。こん棒で頭を、サイクス自身が目を背け、しかし恐ろしくて背を向けられないほど、無残に砕かれる。

目をおおうばかりの恐ろしい姿だった。男はよろよろと壁の方に後ずさりしたが、片手で目を押えながら、片方で重い棍棒をつかむと、女の上から振り下ろした。

サイクスのナンシー殺しと死体との対峙、その後ドアを開けて逃げ出すまでの一連の描写は今まで他に読んだことがないほど素晴らしい。何度も読んでしまう。

そうしている間じゅう男は、一度も死体に背を向けたことがなかった。一瞬の間といえども、なかったのである。後始末が終わると彼は、後ずさりしながらドアの方に行った。

悪党は皆自業自得に死んで行くが、誰もが皆、身近に感じられる。例えばユダヤ人フェイギンがずる賢く表裏のある人物として描かれていても、それはあたりまえの普通のこと、無理からぬことのように理解される。

勧善懲悪の話とはいえ、善人達よりもずっと、悪人達が人間らしく生き生きと描かれて、読み終えると、「これならナンシーもフェイギンも、サイクスだって、報われるよな、こんな風に書いてもらってさ」と、彼らが笑っている顔がロンドン橋の向こうの夜空に浮かぶのだった。

オリヴァー・トゥイスト(下) (ちくま文庫)
オリヴァー・トゥイスト(下) (ちくま文庫)チャールズ・ディケンズ 小池滋

筑摩書房 1997-12-04
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